今月の日記

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2021-02-22

読了「コスモポリタンズ」


サマセット・モーム作「コスモポリタンズ」より、気に入ったところ。

物もらいp282

まえまえから、私はいくどそれを嘆いていたか知れなかった。なにしろ、私には、それこそ、やりたいことの半分でもするに必要な時間の半分も余裕がなかったからだ。自分の時間といえるものに、このまえありつけたのは、いったいいつのことだったか、ちょっと見当もつかないくらいだ。たった一週間でもよいから、なにもしないで、呑気にかまえていられたら、それこそどんなに楽しいことだろう、といつも思ったものだった。世間の人は、たいてい、忙しく働いているか、さもなければ遊びほうけているものだ。(中略)ところが、私はぜんぜんなんにもしないで、ただぽかんとしている自分を描いてみるのだった。午前中ものらりくらり、午後もぐずぐず、日が暮れてからも、のんべんだらりんで、一日をおわりたいのだ。(中略)時間というものは、まったくあっというまに過ぎ去って、ふたたびとり返しのつかぬものだからこそ、人間のあらゆる財産のなかでも、いちばん貴重なのだ。だから、時間の浪費ほど、人間にできるぜいたくな散財はないわけである。

実に愉快な文章。こんな浮世離れした考えが好きです。


物もらいp284

私はかねがね、なんとか都合をつけて、自分で好きなことのできるひまがつくれたら、どんなにいいだろうと空想していたものだが、さて、そのばあいのように、とつぜんなにもすることがなくなって、そのひまをなんとかうまく利用しなくてはならないような羽目にぶつかると、ハタと当惑してしまった。それはちょうど、空と水ばかりの太平洋を航海しているとき、偶然、船の中で近づきになった人にむかって、ロンドンへおいでになるようなことがあったら、どうぞ私の家へお泊り下さい、といったところが、忘れた頃になって、その人が、なんの前ぶれもなしに、うんとこさ荷物をたずさえて、ひょっこりやってきたようなものだった。

暇はほしいけど、いざ与えられると戸惑ってしまう。モームの気持ちはよく分かります。私も大学生のとき長期休暇を持て余していました。

「コスモポリタンズ」はどの短編もモーム自身が語り手です。彼は率直な性格だとわかります。はっきりと物を言い、恐れるところがないから。読んでいて気持ちいい。夏目漱石の「坊っちゃん」を思い出します。率直さ以外では全然似ていないけれど。モームはすぐれたユーモアのセンスの持ち主です。だんだん作者が好きになる。そんな本でした


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